めかりる

カエル、変える、買える、帰る、考える

鳥獣戯画展を予習するシリーズ 2. 住吉家伝来模本に見る益田家旧蔵断簡

開幕までひと月をきった、九州国立博物館の「京都 高山寺と明恵上人 鳥獣戯画」展。その現存「鳥獣人物戯画」から漏れ落ちた物語を探りながら、お披露目を待つシリーズの第 2 弾。

画像は、れっきとした鳥獣戯画の一場面。え? 見たことない?

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これは、「益田家旧蔵断簡」の部分です。現在に伝わる「鳥獣人物戯画」から抜け落ちた部分。証拠に、甲巻のところどころの右下にある損傷痕が、この断簡でもはっきりと見える。

このエントリーでは、断簡の伝わり方を摸本から読み解く、ことができればと。

第 1 弾はこちら。

11/3 追記。九博で鳥獣戯画を見てきた話


益田家旧蔵断簡と住吉家伝来模本との比較

甲巻の断簡 4 種のうち、東京国立博物館蔵断簡を除いた、益田家旧蔵断簡を含む 3 種には、現存甲巻と同じ損傷痕が見られるため、ほぼ確実に現存甲巻から欠落した部分といえます。

住吉家伝来摸本は、これら 3 種を含めた内容になっており、その繋がりを知ることができます。また、逆にいえば、断簡 3 種以外の部分の住吉摸本の内容も、元の甲巻が含んでいたことにもなります。

益田家旧蔵断簡と住吉家伝来模本の基礎情報

  • 益田家旧蔵断簡 3 紙 1 幅
    • 益田 ( 益田孝 ) 家旧蔵断簡は、連続しない 3 紙をつなぎ、加筆等により、不自然を減じている

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  • 住吉家伝来模本 ( 全 5 巻、含「兎猿遊戯中巻」。梅澤記念館蔵 )
    • 「住之江文庫」の印がある
    • 全 5 巻のうち 1 巻の「兎猿遊戯中巻」に、現存甲巻にない場面が描かれており、以前の甲巻の姿を伝えるものとされている

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以下は、住吉家伝来模本全 5 巻各巻のタイトルと大まかな内容。

  • 「兎猿遊戯大巻」
    • 現存甲巻とほぼ一致する
    • カエルとウサギの相撲の後に、現存甲巻にないサルとウサギの囲碁の場面が差し込まれている。この相撲の後に囲碁がくる並びは、長尾摸本と同じ。後世の差し込みと推定されている
  • 「兎猿遊戯中巻」
    • 現存甲巻に見られない競馬、蹴鞠、舟遊びなど
  • 「兎猿遊戯小巻」
    • 現存丙巻後半部分
  • 「僧徒囲碁巻」
    • 現存丙巻前半部分
  • 「侏儒舞踏巻」
    • 現存丁巻とほぼ一致する
    • 丁巻から抜けている部分は、後世になって、丁巻に差し込まれた部分とされている

画像があえて低精度なのは、観賞を目的にしていないためです。現物は実物でご鑑賞を。福岡にも来たらいいなー。

消えた太鼓

益田家旧蔵断簡の第 1 紙と第 2 紙の継ぎ目 ( C ) に着目。

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次いで、該当する部分の住吉摸本 ( D ) 。

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C では、ウサギが手を振りあげ、その前にサルがいる。鹿に乗って競争するウサギとサルを応援しているかのような構図。D では、このウサギ(切れ目で見づらいが、実際は 2 羽いる)は太鼓を叩いてスタートの合図をしているように見える。

書き足された草と継がれた枝

益田家旧蔵断簡の第 2 紙と第 3 紙の継ぎ目 ( E ) に着目。

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D と比較すると、いくつかの点で相違がある。

  1. 地面の高さが違うこと
  2. 住吉摸本の第 5 紙後半と益田家旧蔵断簡第 3 とに同じような高い木があること
  3. 継ぎ目付近の草(竜胆)の有無

最初に注意すべきは、1. 地面の高さである。E の第 2 紙の終わりの地面は、まさにこれから高くなっていかんとするように見えるがいかがだろう。

D においては、ウサギの騎乗する狐の真下はすでに高さがあるが、摸本の元ネタである E を見る限り、地面が高くなるまでには、まだ距離が必要である。これは、摸本の限界でもあろうが、臨摸本とよべるほどの正確性を伴っていないために距離が詰まったことに由来する。

なおいっそう踏み込んで考えてみるに、住吉摸本自体が、摸本の摸本である可能性すらある。こうなると伝言ゲームに等しい。少しずつ改変されていった結果かもしれない。

であるならば、2. の高い木はどうなるだろうか。D にあるようなウサギの頭上まで伸びた枝はなかったと考えるがよろしい。したがって、E の継ぎ目の第 2 紙側にある枝は元々は存在せず、おそらくは、E の 3 紙が 1 幅になる際に加筆されたと推定されている。

3. の草についても同じく。前後の継ぎ目の齟齬をなくすべく、E の第 3 紙冒頭の草が加筆されている。D に描かれていないのは、距離が詰まったために省略されたのだろう。

入れ替わった観客

益田家旧蔵断簡 ( A ) 全体は、ちょうど紙の継ぎ目に呼応して、競馬のスタート前、サルがリードするウサギの耳を引っ張る競り合い、眺める観客(カメ、ツル、カエル、キツネ。左端の鳥はアヒルと推定されている)の 3 部分に分けられる。

ところが、住吉家伝来摸本においては、競馬を眺めているのは、E のとおり、ウサギ 2 羽とサルである。また、場所も崖の上である。

住吉家伝来摸本のなかで、益田家旧蔵断簡における観客役が描かれている箇所が、下 F になる。カエルが寄りかかっている木と、ツルとカメとは、書き落とされたとみられている。

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第 9 紙と第 10 紙では蹴鞠が行われている。つまり、益田家旧蔵断簡の競馬を眺める観客は、競馬ではなく蹴鞠を見ていたことになる。

益田家旧蔵断簡はこうして作られた! のかも

これまで見てきたように、益田家旧蔵断簡は意図的に編集されたとみることができる。

では、なぜこのような編集がなされたのか。ここからは、私見です。

の前に、益田家旧蔵断簡を再掲。

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構成は非常にすっきりしている。

狐に乗ったウサギと鹿に乗ったサルとの争いの準備。応援するウサギとサル。ずるがしこいサルがウサギの耳を引っ張る。おっさんくさいカエル、帽子をかぶり杖までつくキツネ。カメとツル、アヒルも見守る。

このシンプルな構成こそが肝だ。

鳥獣戯画では、現存甲巻、長尾摸本、住吉摸本、そのどれもにおいて、登場する動物は、まるで人間であるかのように振る舞い、人間のする遊びを楽しむ。例外は、乗り物や引き出物として、つまり、それそのものとして扱われる場合である。まぁ、鳥類であるツルとアヒルの擬人化は難しいので脇に置く。カメも微妙な感じだが、目のあたりを見れば、擬人化されているといえなくはない。

蛇の例は、後日。このエントリーでは、擬人化されたものはカタカナ、そうでないものは漢字で表記して区別した。

つまり、鳥獣戯画といえば、擬人化である。それもいろんな動物が擬人化されている。カエル、ウサギ、サル、キツネ、ネコ、ミミズク。カメとツル、アヒルは、益田家旧蔵断簡にしか現れないし、MIHO MUSEUM 蔵断簡には、何かを持つネズミの後姿も見える。

多くの動物が出てこその鳥獣戯画。ウサギとサルだけでは物足りないのだ。観客が入れ替わった理由は、これにほかならない。

また、消えた太鼓の謎はこうだ。住吉摸本では、レース前の様子やレースの続きが、さらに描かれている。その中にあってこそ太鼓の出番であり、簡略化したレース模様には余分であるため。どうだろうか。

紙の継ぎ目は巧妙に加筆され、元々繋がった巻物であるかのように。殺カエル事件の犯人でもあったサルは、ウサギにも意地悪を。崖の上でレースを見守っていたウサギやサルは画面下に移動させられ、替わって人間味あふれるカエルやそのほかの動物たちが登場する。

断簡成立の当時、鳥獣戯画甲巻にあたる絵巻物には、すでに一定の評価が付けられていて、どのような内容のものなのかが周知されていたように思う。そうであるからこそ、数種の断簡や摸本が現在も伝わっているのだ。

シンプルな構成でありながら、これだけの「鳥獣戯画」らしい要素がちりばめられた断簡。現存が確認されている甲巻断簡 4 種のうち、もっとも優れた、いいとこどりの「断簡らしい」断簡である。

この益田家旧蔵断簡は、鳥獣戯画甲巻の縮図にほかならない。そして、そのようになるために(縮図となりうるために)意図をもって編集されたものであろう。

補足と''蛇''足

鳥獣戯画展を予習するシリーズ

  1. 断簡と摸本
  2. 住吉家伝来模本に見る益田家旧蔵断簡
  3. 長尾摸本と探幽縮図と丙巻後半とヘビ

カエルの物語なので、ヘビについてはぜひ俎上にあげたい。-> 載せました。

参考資料(再掲)

このエントリーは、以下の書籍とインターネットリソースによって生成されました。また、過去の展覧会、高山寺等への訪問で得た知見も混じってます。

  • 『日本絵巻大成 6 鳥獣人物戯画』(中央公論新社、1977 年)
  • 『鳥獣戯画がやってきた!』 (サントリー美術館、読売新聞社、2007 年)
  • 『別冊宝島 2302 鳥獣戯画の謎』(宝島社、2015 年)

カエルを救う少女の話

ここ数日、ちょっと前に話題になってた「お助け!シュロの糸」のあの研究者の記事が目に付くように。

日本自然保護大賞を受賞したのは、2 年前になるのか。当時もけっこうな話題になってたはず。ほら、インターネッツってネコ好きの次くらいにカエル好きが多いでしょ?

なぜ再燃したんだろう。と思っていたら、山口放送制作のドキュメンタリー番組が 9/11 に放送されてたんですね。見逃したなー。

「戦国鳥獣戯画」とは、いったいなん(なん)ですかね?

10 月番組改編にともなって、珍妙なアニメが。

いやいやいやいや。なぜに戦国時代。「鳥獣戯画」を冠するなら、平安とか鎌倉とかで「無名な民衆を動物に見立てた風刺アニメ」とかでよくない? もちろん、風刺劇なら時代設定を現代にしたっていい。戦国時代で有名武将がバンバン出てくるのに、「鳥獣戯画」といわれても、まったくまったく合いそうにない。

番組ウェブサイトが KBC 九州朝日放送にあるので、九国で 10 月から始まる「鳥獣戯画」展にかぶせたであろうことは、きっとそのとおりなんだろう。是非もなく、福岡から盛りあげていこうぜ感を滲みさせてくれる。

え? 絵作りの問題? 墨絵風? ジブリの鳥獣戯画のアニメ化から、そう時間もたっていないのに。ジブリをライバル認定とは、ハードル上げ過ぎやないかね。

かたや「鳥獣戯画」の名だけを借りて期待値をうなぎのようにガンガン上げ、かたや戦国武将のコンテンツを消費する守りに守ったアニメ。きっと、第一話は見る。見るけれどもさ。

んー。

ところで、主人公カエルは誰役? 福岡やけん如水でよかろうもん。如水は出んとね? 太宰府天満宮から九州国立博物館にいたる道すがらには、「如水の井戸」、「如水社」、「黒田家ゆかりの目薬の木」まであるというのに。公式には、如水の「如」の字も載ってない。

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九博「鳥獣戯画」展チケット付きプランのあるホテル

だいたいどこの会場でも「鳥獣戯画」展は、入館に数時間待ち、館内でも数時間並んで見られるのは数分というのが普通。そりゃつかれるばい。という方に向けて、いくつかのホテルではこんなプランが用意された。

通常の特別展でチケット付きプランが販売されることはまずない。それだけへとへとになる覚悟がいりそうな予感。