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トーハクの「博物館に初もうで 2018 」に『鳥獣戯画断簡』出展決定!

鳥獣戯画ファンに朗報! 新春恒例、東京国立博物館の 2018 年「博物館に初もうで」イベントに『鳥獣人物戯画』甲巻の断簡が登場します。

イベント期間は、2018 年 1/2(火) ~ 28(日) ですが、『鳥獣戯画断簡』は、2/4(日)まで展示されます。要注意の休館日は、1/9、15、22、29 です。

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ちなみに、『鳥獣戯画』甲巻(と丙巻)は東京国立博物館に寄託されているんですが、こちらはおいそれとお出にならないようです。

東京国立博物館蔵甲巻断簡について

正式の名称を『紙本墨画鳥獣人物戯画甲巻断簡』というようで、2017 年 3 月に、鳥獣戯画の断簡としては初めて重要文化財に指定されました。

ブルックリン美術館蔵の高松家旧蔵断簡は、海外にあるため、文化財保護法の対象外ですが、今後、益田家旧蔵断簡や MIHO MUSEUM 蔵断簡も重文指定になるのでしょうか。

そもそも「断簡とはなにか」については、過去のエントリーをどうぞ。


これまでの出展実績

実は、この『鳥獣戯画断簡』(以下、東博断簡)は、上記の重要文化財への登録を受けて、2017 年 4 月にも公開されていました。

よって、2017 年は、国宝たる現存の『鳥獣人物戯画』は開陳されなかったものの、東博断簡だけは見ることができたんですね。

そのほかにも、近年では下記の出展実績があります。

私は、唯一、2014 年の京都で見ています。重要文化財指定によって、ほかの断簡より出展が増え、いちばんレア度が低い断簡になったもよう。

断簡の概要

全体は、以下のリンクから確認できます。

1 幅が 3 紙で成っています。このエントリーでは、甲巻本編との混同を避けるため、右から「東博断簡 A / B / C 」とします。

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場面の連続性からの仮説

従来、『鳥獣人物戯画』甲巻(以下、甲巻本編)には、物語の連続性がない箇所のひとつに、第 15 紙と第 16 紙との間が挙げられていました。 *1

場面の連続性による問題は 2 点です。ひとつめは、第 16 紙の右端の萩が散っているさまを表す点描が、第 15 紙左際に見られない点。ふたつめは、第 15 紙のたった 2 匹での田楽カエル。田楽である以上、もっと多数で踊らないと迫力に欠けるという点。

ここで、第 15 紙の代わりに東博断簡を置いてみると。お、東博断簡左端の不自然な点模様がの理由がわかります。

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では、第 15 紙はどこに繋がっているのか。答えは甲巻本編でなく、摸本にありました。

下の画像は、『長尾家旧蔵摸本』(以下、長尾摸本)とよばれるものの一部です。長尾摸本とは、甲巻本編が現在の形になる前の状態が模写されているものです。ほかに『住吉家伝来摸本』というものもあって、ともに、現存の甲巻本編にはない場面を含んでいます。

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長尾摸本によると、第 15 紙に見られた田楽カエル 2 匹の後に 3 匹、計 5 匹が輪になって踊っている様子が描かれています。

3 匹の田楽カエルを含む一連の場面は、甲巻本編にもほかの断簡にもありません。今後、断簡として世に出てくることがあれば、そりゃーもう、大事件まったなしです。

料紙の長さからの仮説

東博断簡 C に甲巻本編 第 16 紙が続くという仮説には、それぞれの料紙のサイズからも補強できます。

甲巻は、料紙の横幅が 54 ~ 55cm くらいで、これより短いものはあっても、大きく超えることはありません。

そこで、「 1. 東博断簡 B 」と「 2. 東博断簡 C + 甲巻本編 第 16 紙」、「 3. 甲巻本編 第 17 紙」を並べてみます。縮尺はそれらしく見えるように少し調整しました。

  • 1. 東博断簡 B

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  • 2. 東博断簡 C + 甲巻本編 第 16 紙

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  • 3. 甲巻本編 第 17 紙

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わお。ほぼ同じ長さ!

修理によって得られた料紙の紙質の知見

『鳥獣人物戯画』は、2009 年から全面修理が行われ、その報告が『鳥獣戯画 修理から見えてきた世界』にまとめられています。その中に、東博断簡についても触れられています。

要点は、以下 5 点。

  • 透過光の観察で、東博断簡全 3 紙は、甲巻本編後半(第 11 紙以降)の賽目、紙繊維の特徴と一致
  • 透過光の観察で、東博断簡 C と甲巻本編 第 16 紙との賽目、紙繊維の特徴の連続性
  • 写真拡大によって、東博断簡 C と甲巻本編 第 16 紙とにある散る萩の花びらの点描の比較において、筆運び、墨のかすれなどが一致
  • 東博断簡 C と甲巻本編 第 16 紙との虫害による欠失の連続性は認められず、虫害発生以前に切り離されたこと
  • 東博断簡 C には、「高山寺」朱印がなく、捺印以前に切り離されたこと

以上により、修理前の東博断簡 C から甲巻本編 第 16 紙に繋がるという仮説は、「修理」によって実証されたといえるわけです。

参考文献
  • 小山茂美編、『日本絵巻大成 6 鳥獣人物戯画』、中央公論社、1977 年
    • 上野憲示、「『鳥獣人物戯画』の復元と観照」、(同上掲載)
  • 高山寺監修、京都国立博物館編、『鳥獣戯画 修理から見えてきた世界』、勉誠出版、2006 年

京都の寺で発見、国宝『鳥獣戯画』の一部か?

「京都の松老寺が所蔵する仏像の胎内から」、甲巻の断簡 10 幅が見つかり、「そのうちの一枚は、現存する摸本の中にもない、まったく新しい」場面とのこと。

それは実ににぎにぎしい祭礼行列を描いたものだった。烏帽子を頭にかぶり、貫頭衣に身を包んだ猿、兎、蛙たちが行列をつくり、画面の左から右へ行進しており、その真ん中には、彼らが担ぎ上げる屋根のついた神輿があり、すまし顔の蛙が一匹鎮座している。そして、画にアクセントをつけるように、猿や兎が馬に似せた鹿や猪にまたがり闊歩していた。

という、中村啓氏のミステリー小説。2016 年 12/29 初版、宝島社文庫刊。

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なんとも夢のある甲巻断簡の発見から、キャーな事件がたて続けに起きちゃうわけ。探偵役はタイトルどおり、美術館のキュレーターで、美術品の真贋を見極める能力を持ち、断簡の真贋判定に関わることになって、事件に巻き込まれ・・・・・・てない? まぁ、なんか関係者のひとりになって、解決に導くって内容。

登場人物のキャラクターが立っていて、ミステリーものとして楽しめるし、美術界隈の事情なんかも盛り込まれていておもしろい。当然、鳥獣戯画についても詳しく書いてあります。

ただ、以下の 2 点はいただけない。

  • 「甲巻ではこれまでに五枚の断簡が発見されている( 29 ページ)」

これまでに見つかっている断簡は、甲巻で 4 幅、丁巻に 1 幅の計 5 幅が正しいはず。もちろん、私が知らないだけってことはあるかも。

  • 「縦はおよそ三〇センチと他とそろっているが、横が八〇センチ以上はある( 54 ページ)」

ここもダウト。

先述のとおり、甲巻の料紙の横幅は 54 ~ 55cm くらいです。鳥獣戯画に使われている料紙は、あらかじめ、適当な(甲巻の場合、 54 ~ 55cm くらい)幅に切られていたと考えるのが妥当です。よって、1 枚だけ 80cm ということはあり得ないわけです。

と、まぁ、細かい指摘は置いておいて、「博物館に初もうで」開幕までの 1 カ月のなぐさめにいかがでしょうか。

*1:ほかには、第 10 紙と第 11 紙との間、第 19 紙と第 20 紙との間がある。つまり、甲巻本編は、4 つのグループに分けることができる。