曰く。釈明会見は金曜日に行われる。土日はメディアが取り上げることが少ないためだ。飛ばしの観測記事、アンテナ記事といわれるものも同類である。そして、この「メディアが取り上げることが少ない」は、「株価に影響を与えない」、「様子を見たい」に替わることもある。
最近、耳にしたのは、5/16、日本放送の「ザ・ボイス」において。ジャーナリストの長谷川幸洋さんの舛添東京都知事の釈明会見についてのコメント。
...これもう定番なんですよね。スキャンダルが起きたときに、金曜日の夕方やると、その日のニュースには取り上げられるけれど、土日があって、そこで火の粉が収まるのではないかと。ま、期待するわけですけど。...
2016/5/16 ザ・ボイス - YouTube
舛添都知事の政治資金不正利用に関する釈明は定例会見において行われた。「定例」、つまり、行われるのはいつだって金曜日なのだ。その前週、5/9 の定例会見でも、この問題について触れているし、5/23 にも、この件に触れるとみられている。
では、「釈明は金曜日」説は、ホントだろうか。
ここでは、ちょっとバカみたいな展開を見せるこの疑惑の内容を含め、各事例へのコメントは極力行わない。過去、金曜日に行われた「会見」を、以下、3 つの類型に分類し、「釈明会見は金曜日に行われる」説を検証する。しようかな。できるといいな。
本当に謝罪会見が金曜日に行われているのかを調べる
金曜日に行うワケ
「土日はメディアが取り上げることが少ない」が、本当なのかは分からないけれど、仮にそうであるとする。テレビやニュースも週末番組に替わるし。謝罪や釈明など沈静化を図りたい場合、金曜日の釈明は有用なのかもしれない。企業の不祥事に関する会見が、「株価に影響を与えない」ように金曜日に設定されるというのは、経営論としては理解できる。
逆に、広報や主義の主張などのためであれば、会見を金曜日に行うことはマイナスの結果につながる。この種の会見の場合、ほかに大きなニュースとバッティングして、印象が薄くなるのを避けるための調整もある。
意見が分かれそうな分類だが、沈静化や拡散の意図とは一線を画する、または、その意図が少なく、会見を行った日が、たまたま金曜日になったような例だってあるだろう。
官公庁や企業の経営方針など、アンテナをあげて「様子を見たい」内容の「関係者の話」は、会見として顕在化しない。意図しない情報が報じられた場合、「当社の見解とは異なります」、「当社の発表によるものではございません」が出される。過去、半年分の「会見」を報じるニュースにもこの例にあたる事例は見当たらなかった。
各大臣や、行政の長が行う定例会見の類は、決して謝罪や釈明だけに終始するのではなく、アピールの場にもなる。大々的なニュースになるのが、圧倒的に前者だとしても。
「会見」ニュースの分類
以上を A ~ D の分類タイプとする。
- 謝罪や釈明、沈静化が望まれるネガティブなもの - A
- 広報や主張など、拡散が望まれるの - B
- たまたま「金曜日」 - C
- 定例会見の日程が金曜日 - D
2016 年の金曜日の「会見」ニュース
ニュースは、「会見」を検索クエリにして、Google のニュース検索の日付指定で検索。週に 0 ~ 2 本程度、記憶していたニュースをソースの立ち位置に拘らずに選択したつもり。を上記タイプで分類。
金曜日に行われた会見 22 件をサンプルにした結果、A タイプは 2 件、B タイプは 7 件、C タイプは 8 件、D タイプは 5 件であった。
数字上では、金曜日に行われる会見が、謝罪や釈明に偏っている兆候は見られない。
高市総務相の経歴詐称に関する言及
4/22。閣議後の記者会見。閣議後の定例なので、D。
普天間飛行場の移設に関する和解勧告の受入れについての官房長官記者会見
3/4。日に 1、2 度行われる定例。D。
ドコモの 2015 年度第 3 四半期の業績と新料金プランの発表会見
1/29。C。5/17 には、総務省がキャリア 3 社に追加値下げ要請を検討 というニュースも。
東京五輪のメイン会場となる新国立競技場デザイン案が採用された建築家隈研吾氏の会見
1/15。B。
2016 年、金曜日以外の A タイプの「会見」ニュース
かといって、謝罪会見の総量がそうそう多いわけではない、という指摘も成立しそうなので、金曜日以外に行われた A タイプの会見も検索することにした。
大きな話題になった(るだろう) 7 件をサンプルとした結果、月曜日 1 件、火曜日 0 件、水曜日 4 件、木曜日 2 件。金曜日に行われた会見件数との有意な差はないに等しい。
民進党山尾政調会長のガソリン代不正疑惑釈明
4/6、水曜日。定例会見。民進党のサイトで このときの会見 がいまだに文字起こしされてないんだよね。
2015 年のタイプ A
2015 年も調べてみた。対象として、『広報会議』(宣伝会議)の記事を A タイプの事例として、その会見が行われた曜日を調べた。
■2015年最も印象に残った不祥事ランキング(括弧内は回答者500人中の選択者数の割合)
ネットユーザーが選んだ2015年の「ワースト謝罪」ランキング|@DIME アットダイム
1位 旭化成建材・三井不動産「傾きマンション」問題(67.2%)
2位 マクドナルド、異物混入問題(39.2%)
3位 東京五輪エンブレム問題(35.2%)
4位 フォルクスワーゲン排ガス不正問題(33.0%)
5位 東芝不正会計問題(27.4%)
6位 日本年金機構 情報流出問題(23.0%)
7位 大塚家具、お家騒動(21.0%)
8位 読売巨人軍、野球賭博関与問題(19.4%)
9位 東洋ゴム工業、免震ゴム偽装問題(15.4%)
10位 タカタ、エアバッグ異常破裂問題(13.8%)
関連会見 12 件のうち、金曜日に行われたものは、1 件のみ。他、月曜日 2 件、火曜日 4 件、水曜日 2 件、木曜日 3 件。
旭化成建材・三井不動産「傾きマンション」問題
この件で初めて記者会見があった 10/20 は火曜日。新聞報道などで問題が表面化してから 6 日目。
マクドナルド、異物混入問題
前年 7 月の鶏肉問題発覚以降、今度は次々と異物混入が明らかに。日本マクドナルドが緊急の記者会見を開いたのは、1/7 水曜日。
東京五輪エンブレム問題
盗用疑惑を強く否定したエンブレムのデザイナー自身による会見は、8/5 水曜日。大会組織委員会によるデザインの原案を公表することで盗用疑惑の沈静化を図ろうとした会見は、8/28、金曜日。
そして、エンブレム使用の中止を発表した会見。9/1 火曜日。「謝罪会見」ではないのかもなー。
フォルクスワーゲン排ガス不正問題
海外案件なので省略。
東芝不正会計問題
会見のあった 7/21 は火曜日。「チャレンジ」に、新たな意味が追加された事件。
日本年金機構 情報流出問題
日本年金機構が、年金情報が流出したことを公表して、記者会見を行ったのは、6/1 月曜日。調査結果の発表にともなって行われた会見は、8/20 木曜日。
大塚家具、お家騒動
双方、会見が多くて、ちょっとうんざり。で、この会見はお詫びじゃなくて、宣伝かも。4/9 は木曜日。最近も親子喧嘩の続報がありましたね。
読売巨人軍、野球賭博関与問題
11/9 は、月曜日。シーズン開幕直前の 3/8 火曜日にももう 1 名 が文春砲に被弾して会見している。
タカタ、エアバッグ異常破裂問題
6/25 木曜日。ずいぶん前からの問題でようやくの会見だった記憶。今年に入っても、タカタ製エアバッグの欠陥によるリコールがホンダにも延焼。
2014 年の A タイプの例
さらに過去、豊作だった(?)といわれる 2014 年。タイプ A にあてはまる会見が行われた曜日について。
関連会見 9 件のうち、金曜日に行われたものは、1 件のみ。他、火曜日 2 件、水曜日 2 件、木曜日 3 件、土曜日 1 件。
1位 理化学研究所 小保方晴子氏不正論文問題(67.4%)
ネットユーザーが選んだ2014年のワースト謝罪会見、1位は「理研・小保方氏」 ――企業はマクドナルド、ベネッセ、朝日が上位に・宣伝会議調べ | AdverTimes(アドタイ)
2位 野々村竜太郎元県議政務調査費不正使用(47.6%)
3位 「両耳の聞こえない作曲家」佐村河内守氏がゴーストライター疑惑で謝罪(36.6%)
4位 マクドナルド 使用期限切れの鶏肉使用(35.0%)
5位 ベネッセコーポレーション 個人情報流出(31.8%)
6位 朝日新聞社『吉田調書』、慰安婦関連記事取り消し謝罪(25.6%)
7位 東京都議会議員によるセクハラ野次(12.2%)
8位 「すき家」従業員過重労働が問題に(12.0%)
9位 アクリフーズ(マルハニチロ子会社)冷凍食品から農薬検出(11.0%)
10位 「たかの友梨」、パワハラ騒動(4.8%)
マクドナルド 使用期限切れの鶏肉使用
7/29 火曜日。2014 年度第 2 四半期の決算の決算会見。
ベネッセコーポレーション 個人情報流出
7/17 木曜日に最初の会見。21 日に追加の流出を発表。お詫びの品が「図書カード500円」か「ベネッセこども基金へのご寄付」かだったことも話題になった一件。
朝日新聞社『吉田調書』、慰安婦関連記事取り消し謝罪
9/11 木曜日。8/5 に紙面で記事の取り消しをしていた慰安婦報道についての見解も。
「たかの友梨」、パワハラ騒動
「会見」記事は見つからず。略す。
まとめ
- 謝罪会見や釈明会見は金曜日に行われる、というのはデマ。むしろ、少ない曜日といえる。また、その他の種類の会見も金曜日に行われている。
- 金曜日に多く思えるのは、各種定例会見がセットされる曜日に関係しているためかもしれない。まったくの思い込みといえる。
長谷川さんは、ロジカルに説明してくれる印象がある、どちらかといえば、好きなタイプのジャーナリストなので、冒頭の発言の引用に他意はありません。「ニュース女子」、毎週楽しみに(杉原杏璃さんを)見てます。
過去の事例を『広報会議』ではなく、アンサイクロペディア に依拠しようとしたけれど、これは自重。