前売り券販売開始から、すでに 2 月近く経ってるな。みなさまいかがおすごしうんぬん。あついですね。とけますね。
さて、10/4 から、九州国立博物館では、「京都 高山寺と明恵上人 鳥獣戯画」展が開催されます。
「鳥獣人物戯画」は、平成の大修復とよばれた 2007 年からの 7 年間をのぞいて、毎年、全国のどこかで展覧会が行われています。
修復後の 2014 年は、京都国立博物館。翌 2015 年に東京国立博物館。そして、今年 2016 年は、福岡県太宰府市、九州国立博物館でお披露目です。なんと鳥獣人物戯画の九州への上陸は今回が初めてだとか。
- 2007 年、開館記念特別展 鳥獣戯画がやってきた! ―国宝『鳥獣人物戯画絵巻』の全貌― サントリー美術館
- 2014 年、国宝 鳥獣戯画と高山寺 | 京都国立博物館 | Kyoto National Museum
- 2015 年、東京国立博物館 - 展示 日本の考古・特別展(平成館) 特別展「鳥獣戯画─京都 高山寺の至宝─」
- 2016 年、九州国立博物館 | 特別展『京都 高山寺と明恵上人 - 特別公開 鳥獣戯画 - 』
九博「鳥獣戯画」展の特設サイトもできました。
なぜか、デバイス幅が 641px から 657px までの間は、グローバルメニューが表示されない謎仕様。
ローソンチケット(Lコード:84202)、チケットぴあ(Pコード:767-722)、セブン-イレブン、イープラス・ファミリーマートほか主要プレイガイドにて、7月1日(金)から発売開始。
コンビニでチケットが買えるようになって、幾分も楽になりましたね。缶バッジ付き券は、当日料金の前売り券に付きます。これは、セブンイレブンだけの取り扱い。8/1 からの限定 2,000 個なのでもうなくなったかな。とはいえ、コンビニなどで前売り券を購入すると、味気ないチケットになるのがなー。
それはそれとして。
このエントリーでは、九博の「鳥獣戯画」展での出展があるのかないのかが気になる、本編以外の、断簡や摸本についてまとめたよ。
10/2 追記
出品目録が、九博の公式サイトに載せられました。これによると、断簡や摸本の類は見当たりません。残念至極。
11/3 追記。九博で鳥獣戯画を見てきた話
「鳥獣戯画」の断簡と摸本
もちろん、国宝『鳥獣人物戯画』全 4 巻は必見だし、これは何度見ても飽きない。図説なども持ってはいるものの、巻物としてながーく展示されている実物を見るのは、やはり楽しい。高山寺にあるレプリカも見たけれど、レプリカだって思って見てしまうと、ね。
高山寺関連の絵画や仏像は、ここ 3 年ほど、バーターで付いてまわってて、個人的にも、2014 年の京都国立博物館で一度見てはいる。
ので、今の興味は、断簡と摸本とに向いています。
断簡と摸本とは、甲巻に集中しており、古くからの人気の高さが窺いしれようというもの。もちろん、わたくしめもカエルちゃん大活躍な甲巻がいちばんすきです。
甲巻の断簡 4 種
一部グッズにも採用される人気の「高山寺」の印。あの、巻物の紙の継ぎ目に押印されている朱色のやつです。これは、巻物の一部を継ぎ目から剥ぎとって(もしくは、切りとって)、売るんだか私蔵するんだかは分からないけれど、まぁ、その類のやつがいるもんだから、そのようなことを防止するために押されたんですね。中国歴代皇帝の「見たよー。バーン」っていう印鑑とは意味が異なります。
印は、5 種類があり、それぞれに意味があるものと考えられています。丁巻末紙中央の 1 種。すべての継ぎ目に押印されたもの。連続性が疑わしい場合と疑義がない場合とでそれぞれ押されたものとで、計 4 種。今回の修復の過程で確認されたものが、もう 1 種あり、合わせて 5 種です。
つまり、「高山寺」の印が押される以前は、現在に伝わる「鳥獣人物戯画」より長い巻物だったわけです。
巻物に限らず、屏風や襖絵などの作品から切りとられた一部のものを「断簡」とよびます。良いところだけを切りとったり、新しい見方ができるようにトリミングしたり。画でなく書でも同じです。手紙の一部を切りとって掛け軸にしたものなどは、よく目にする再構成のパターンです。用いられる断簡も一幅にかぎらず、パッチワークのように複数の作者の作品からの断簡が並んであるものもあります。
「鳥獣人物戯画」甲巻では、以下の 4 種 8 紙が知られています。
- 東京国立博物館蔵断簡 3 紙 1 幅
- 益田家旧蔵断簡 3 紙 1 幅
- 益田 ( 益田孝 ) 家旧蔵断簡は、連続しない 3 紙をつなぎ、加筆等により、不自然を減じている
- 高松家旧蔵断簡 ( ブルックリン美術館蔵 )
- 元テニスプレーヤーのアラステア・マーティン ( Alastair Bradley Martin ) 氏のコレクション。氏は、2010 年に 94 歳で死去。現在の所有者は息子のロビン・マーティン(Robin Bradley Martin)氏
- Alastair Martin, 94, Court Tennis Star and Modern Tennis Executive - The New York Times
- MIHO MUSEUM 蔵断簡 ( 酒井抱一旧蔵 )
- 1977 年出版の『日本絵巻大成 6 鳥獣人物戯画』では、「東京某家蔵」と記載
また、同じく、「東京某家蔵」とあった丁巻の断簡も、現在は、MIHO MUSEUM が、所蔵しています。
甲巻の模本 3 種
現存の甲巻と断簡とを足しあわせても、つながりに欠けるところがあります。これらの間は、摸本によって補えます。
- 住吉家伝来模本 ( 全 5 巻、含「兎猿遊戯中巻」。梅澤記念館蔵 )
- 「住之江文庫」の印がある
- 全 5 巻のうち 1 巻の「兎猿遊戯中巻」に、現存甲巻にない場面が描かれており、以前の甲巻の姿を伝えるものとされている
- 長尾家旧蔵模本 ( 伝土佐光信筆。ホノルル美術館蔵 )
- サルの顔が朱色で塗られているのが特徴
- 鳥獣戯画等絵巻(探幽縮図) ( 京都国立博物館蔵。狩野探幽筆 )
- 探幽には、古画の写しが膨大にあり、総じて「探幽縮図」とよぶ。そのうち、甲巻の摸本の写しと思われるものだけで、2 種が存する
- リンク先の 4 つめからが、京博が所蔵する「探幽縮図」の鳥獣戯画部分。ただし、順不同。途中から、紙を上下に 2 分割してある
- 「探幽縮図」は、その一部が東京国立博物館にも収蔵されていて、「 徳川幕府の御用絵師であった狩野探幽によって縮写された古画の鑑定控え 」との解説がある
- 長尾家旧蔵模本系統の模写といわれており、欠落部分の相違などからその種本も数種あったと推定される
また、東京国立博物館には、明治時代の模写の断簡 や松平定家編の『古画類聚』の中にも、鳥獣人物戯画の摸写 他、数点がある
甲巻の断簡と摸本との出展実績
今も出展作品リストが確認できる近年の鳥獣戯画展への出品実績は、以下のとおり。
2007 年のサントリー美術館では、現存するすべての断簡と摸本とが勢ぞろいしています。今後、これだけの断簡が揃うことはあるのかしら。
2014 年の京博では、東京国立博物館蔵断簡、MIHO MUSEUM 蔵断簡、探幽縮図のみ。
2015 年の東博では、東京国立博物館蔵断簡、MIHO MUSEUM 蔵断簡。他に 2 種の断簡が展示されており、これらは、益田家旧蔵断簡とブルックリン美術館蔵高松家旧蔵断簡と推定できるので、断簡は全 4 種。丁巻の断簡 1 種も出品されており、現存 5 種すべてが出揃っている。摸本はなし。
九博では、益田家旧蔵断簡と長尾家旧蔵模本とを見たいと思ってるのだけれど、出展されるだろうか。
(追記)出展されませんでした。
上野復元案によると、甲巻は 2 巻構成だった
これらの断簡と摸本、そして、甲巻から、鳥獣戯画を以前の形に遡ろうとする研究があります。
鳥獣人物戯画の成立時には、長尺の紙は存在せず、半紙程度の長さの紙に描かれたものを接いで絵巻物にします。短いもので、20cm 強、長いものは、60cm 弱。多くは、50 数センチ強といったところ。接いだ状態で描かれたのかどうかは判然としない部分もありますが、この部分を剥がす、もしくは、自然に剥がれることで、欠落や錯簡(紙の順番違え)が容易にできてしまいます。
現存 23 紙からなる甲巻には、物語のつながりに無理がある場面があります。成立から時を経る中で欠落や錯簡があったとの指摘があり、現存の甲巻は、再構成されたものであることが推測されます。また、それを証左するかたちで、断簡と摸本との存在があります。これをなんとか元の形に復元しようという試みは、それこそ何十年も前から行われてきました。
そして、現在においては、2 巻編成を主張する上野憲示先生による上野復元案が主流のようです。これは、修復後の今も視認できる損傷のあとに着目したものです。損傷があるものとないものとに分けた 2 巻説です。
巻物ですので、巻いた状態で芯まで幾重の紙を越えて生じた損傷は、広げた状態では間隔をあけて付くことになります。また、巻物の中心になるほどその損傷痕の間隔が狭くなっていきます。この理屈で、損傷のある巻、ない巻が判別できます。また、損傷のある巻では、損傷痕の間隔から当時の接続の順番まで判明したというわけです。
損傷痕を証拠とした 2 巻説は、今も大きな図書館などにある、1977 年の中央公論新社刊『日本絵巻大成 6 鳥獣人物戯画』に詳しい記載があります。この本には、先に紹介した、すべての断簡 4 種、「探幽縮図」をのぞく摸本 2 種、加えて、よりオリジナルに近い資料で作成された復元案も収められています。
ちなみに、10 年後に出版された中央公論社の『日本の絵巻 6...』や、さらに 7 年後の『日本の絵巻 コンパクト版 6...』は、前出の本と同じ編集者でありながらページ数が減っており、その一部が省略されたもののようです。なんと、某ネット書店でコンパクト版が 50,000 円を超えていてびっくりした。探せば、その十分の一で入手することもできますよ。
簡単に手に入るものとしては、2015 年の東博での鳥獣戯画展に合わせて発売された下記のムック本がおすすめです。甲巻のみに焦点をしぼった内容で、甲巻全体と復元案とが収録されています。
下記リンク先でも、復元案を一覧できます。
上野復元案は、2007 年のサントリー美術館での「 開館記念特別展 鳥獣戯画がやってきた! ―国宝『鳥獣人物戯画絵巻』の全貌― 」でも、主題のひとつにもなっていました。
補足と''蛇''足
ちょっと長くなりすぎたので、ここまで。つづきは、会期が始まる前には、書いておきたいなー。的なメモ。
- 住吉家伝来模本に見る益田家旧蔵断簡
- 長尾摸本と探幽縮図と丙巻後半とヘビ
参考資料
このエントリーは、以下の書籍とインターネットリソースによって生成されました。また、過去の展覧会、高山寺等への訪問で得た知見も混じってます。
- 『日本絵巻大成 6 鳥獣人物戯画』(中央公論新社、1977 年)
- 『鳥獣戯画がやってきた!』 (サントリー美術館、読売新聞社、2007 年)
- 『別冊宝島 2302 鳥獣戯画の謎』(宝島社、2015 年)
バンダイ「鳥獣机画」をお探しの方へ
太宰府天満宮参道にある、九博のアンテナショップの店頭にありましたよ。
過去にガチャガチャしたときのはなし。その後、めでたく蛙(ロ)も引き当てました。
10/9 追記
九博で 4 機、稼働中。めでたく全種そろいました!
「NEW GAME!」第 1 話のエンディングで
「鳥獣人物画」なる本が主人公の本棚にささっていましたね。原作にはないので、スタッフにファンがいる模様。
あ、アニメの話です。