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タオルミーナ・サミット報道を理解するために知っておきたいこと

G7 とか、主要国首脳会議とかよばれている毎年恒例のやつです。去年は、日本の伊勢志摩で行われました。

今年、2017 年の開催地は、イタリア、シチリア島東岸のタオルミーナ Taormina です。対岸は、ちょうどイタリア半島のブーツの先っぽにあたる部分です。

前面に広がる海と背後に聳えたつ山とに挟まれた場所にあり、古くは、その間を城壁で囲っていました。鉄道と高速道路が開通するまでは、カターニャとメッシーナとを結ぶ交通の要所として栄えた経緯もあり、今も、街の西と東にある門は今もカターニャ門、メッシーナ門として残っています。城壁は西門周辺のみ。ギリシャ劇場跡などの歴史的建造物も多く残っています。世界的なリゾート地でもあり、いくつかの映画の舞台にもなっているようです。シチリアの写真を見る機会には必ずといっていいほど、お目にかかります。

タオルミーナからすこし北東にあるメッシーナ海峡が、シチリア島とイタリア半島との距離が最も近い場所になるのですが、この海峡の両岸の鉄道は、車両をフェリーに載せて繋げています。

リンク先のはてなダイアリー Yの王宮 さんのところに、フェリーへの乗船と下船との様子の映像があるのでぜひ。めちゃくちゃワクワクですよ。

というわけで、サミットの話です。年に一度くらい世界について調べてみようってことで、定例的に行われるサミットをおっかけるのが都合のいい題目になるのです。

このエントリーでは、サミット報道の予備知識として知っておきたい項目などを羅列します。

去年の事前まとめはこちら。


G7 タオルミーナ・サミットの概略

2017 年 5/26、27 に行われます。

参加各国の持ち回りで開催場所が決定されます。その順番は仏米英(露)独日伊加と決まっていて、今年はイタリアです。第 43 回目に当たります。

今次のサミットは、以下の 9 名によって構成されます。今年は、各国首脳の交代が相次ぎ、9 名のうち、イタリア、アメリカ、フランス、イギリスの 4 カ国の首脳が初参加という異例のサミットです。

  • イタリア共和国閣僚評議会議長 パオロ・ジェンティローニ 首相
  • アメリカ合衆国大統領 ドナルド・トランプ 大統領
  • フランス共和国大統領 エマニュエル・マクロン 大統領
  • ドイツ連邦共和国連邦首相 アンゲラ・メルケル 首相
  • 日本国内閣総理大臣 安倍晋三 首相
  • カナダ首相 ジャスティン・トルドー 首相
  • イギリス首相兼第一大蔵卿兼国家公務員担当大臣 テリーザ・メイ 首相
  • 欧州連合(EU) ドナルド・トゥスク 欧州理事会議長
  • 欧州連合(EU) ジャン=クロード・ユンケル(ユンカー) 欧州委員会委員長

サミットの主なテーマ

過去、2、3 年分の成果文書を見ると、毎次、だいたい決まったテーマが話し合われています。直前の首脳会談や G7 外相会談から外れた合意になることは少ないようですが、ここでの注目は、どのように表現になるか、です。

サミットは、二国間のみの交渉ではなく、多国間交渉であることに意味があります。それぞれの国の間で話し合ったことを、G7 間でも共有しようよ、という会議です。多国間交渉であるがゆえに、表立って一国の利益を主張するということはできません。さはさりながら、国益を追求するのが外交です。ですので、G7 のような大きな場においては、いきなりの一発勝負ではなく、シェルパ会合を含めた事前交渉や会談、現在の国際情勢の機微、第三国との関係性、果ては、首脳同士の個人間での友誼などなどが、このたった 2 日間に複雑に絡み合うのです。

今次のサミットの主な議題

ブリグジット( Brexit )問題

イギリスの欧州連合( EU )からの脱退についての問題です。

離脱後の外国企業による投資や経済活動の環境をどう整備していくか、離脱にあたっての交渉の透明性、予見可能性、および、移行期間をどう担保するかがポイントです。

離脱したイギリス側に言い分があるように、離脱された EU 側にも、おいしいとこだけ持っていかれたくないわけです。ここの綱引き如何によっては、経済に世界的な影響があるといわれていて、サミットでの扱われ方が最も気になるところです。

同じく EU 離脱掲げてフランス大統領選を戦ったマリーヌ・ル・ペンは敗れ、EU 崩壊の波はいちおう停滞しました。

北朝鮮の弾道ミサイル問題

2017 年になって、すでに 8 回目、計 11 初の弾道ミサイル実験を行っている北朝鮮については、トランプ政権になって、アメリカが積極的に介入してきています、

北朝鮮への対応を巡って、なにかと対立しがちだった米中間にも変化の兆しがあります。4/8 には、中国国家主席習近平は、トランプ大統領との初の首脳会談で、貿易不均衡是正に向けた「 100 日計画」を策定 しました。そして、その裏で、中国による北朝鮮への対応も同じく 100 日の猶予 を求めたとされていて、これまでの日米に加えて中国も協調する雰囲気になっています。

ただ、現最高指導者である金正恩は、就任以来、中国を離れ、ロシアに傾倒しているのではないかという見方もあり、裏口を空けたままの圧力への疑問も残っています。

G7 的には、これまで文字どおり「対岸の火事」だった北朝鮮問題ですが、安倍さんは(今年こそ)サミットの主要議題としてとりあげると気炎をあげていて、結果が期待されます。

シリア問題

ロシアのサミット復帰を妨げる大きな問題のうちの 1 つです。これまで、ウクライナ問題を巡って対立してきた米露は、ISIL に対抗するため、トランプ大統領から秋波が送られているとされていました。

しかし、4 月初めにシリアのアサド政権が化学兵器を用いた民間人の殺害をきっかけに、アメリカがシリアを空爆したわけですが、このアサド政権の裏には、ロシアがいるとされています。

直接にロシア批判を含む内容にはならないでしょうから、シリア政権側の化学兵器使用の是非について、どのように言及されるかが気になります。

前回サミットからの継続テーマ

サミットでは、会期後に議長国首脳によって、首脳宣言という形でその成果が発表されます。前回の第 42 回目のサミットでは、「G7 伊勢志摩サミット首脳宣言」が発出されました。

2 G7伊勢志摩経済イニシアティブ
●強固で,持続可能な,かつ,均衡ある成長に貢献するため,世界経済,移民及び難民,貿易,インフラ,保健,女性,サイバー,腐敗対策,気候,エネルギーの分野でのコミットメントを発展。

経済と自由貿易

毎次、世界経済の動向についてが第一のテーマです。前年は、3 つの経済政策(金融緩和、財政出動、構造転換・改革)を承認する形になっていました。

前年議題に挙がった、「鉄鋼をはじめとする過剰生産能力問題への取組」とは、まさに中国の一帯一路とバッティングする問題です。今次の議長国イタリア以外の首脳が AIIB 総会へ出席しなかったことからも、各国の思惑が透けている気もします。

また、「保護主義や内向き志向の台頭も懸念され」ている世界情勢において、自由で開かれた経済をどう担保するのかも議題です。、

気候変動

トランプさんの大嫌いな奴です。前年は「パリ協定を早く締結しちゃいましょう」でしたが。はてさて。

地域情勢

シリア、ISIL による難民問題、ここに端を発するテロ等、依然として中東は火薬庫のままです。ヨーロッパ各国、ロシアに加え、トルコなど、ステークスホルダーが多すぎて、解決の道筋が見えません。どうしても、アメリカとロシアとの協力関係が必要になるでしょうから、そのためにも、ロシアのサミット復帰についてが議題になるのではと。

東シナ海、南シナ海への言及は、北朝鮮問題にかっさらわれ、また、これに中国の協力も必要になるため、「法の支配に基づく国際秩序の維持」程度になりそうです。

参加各国の最近の事情

日本

安倍首相の参加は、第一次政権を含め、6 回目。ドイツのメルケル首相に次いで 2 番目におおいことになります。

日本にとっては、各国との経済連携協定と北朝鮮問題が最大の課題です。これに関して、G7 各国と連携した姿勢を見せられるかが注目されます。

また、経済連携協定で、TPP は結実しませんでしたが、日 EU EPA やカナダを含めた TPP イレブンの交渉が残っています。

直近の他の G7 国首脳との直接会談、電話会談は以下のとおり。

カナダのトルドー首相とは、前年の伊勢志摩サミット以来、電話会談のみで会っていません。フランスのマクロン大統領とも、大統領選出が 5/14 だったため、電話会談のみで直接の会談はありません。

参加せずとも話題になる 2 カ国についても。ロシアのプーチン大統領とは、昨年、今年と首脳会談が行われました。また、9 月にもウラジオストクでの会談が予定されています。中国の習近平国家主席とは、昨年 9 月の G20 時以来、会談がありません。

イタリア

レンツィ前首相は、憲法改正案を国民投票によって否決され辞任。セルジョ・マッタレッラ大統領による要請によって、2016 年 12/12 にジェンティローニが首相に就任しました。過去の政権下で外相などを歴任しています。G7 へは、初参加で議長国ということに。

日本との首脳会談で、サミットの議題にアフリカ問題を挙げると話しています。イタリアに限らず、一概にヨーロッパの国々のアフリカや中東に対する思惑には注意が必要です。が、

また、今年初めのイタリア外相の発言によると、サミットで ロシアの復帰を認めるための条件を検討すべき と報じられており、エネルギー政策をロシアに頼っているイタリアと自立を目指すドイツとでヨーロッパもさまざま。ロシア復帰は、去年、議長国として安倍さんが果たそうとしていた役割でもありましたね。北方領土問題を抱える日本も同調できるでしょう。

就任早々の 1 月に心臓を悪くして入院したとかのニュースがありましたが、どこの国でもトップは大変なんだなと。

アメリカ

トランプ大統領は、オバマ前大統領の任期満了に伴う選挙によって当選。1/20 に就任。サミットへは初参加。

ロシアとの関係や、FBI 長官更迭をはじめ、話題にことかかないトランプさんですが、サミット自体にも一家言があるようで。

そもそも、ロシアをはずしたのは、アメリカとドイツの意向が強かったんじゃないですかね。

G7 伊勢志摩経済イニシアティブをはじめ、過去のサミットでも、「あらゆる形態の保護主義と闘う」といった文言が含まれており、この点について、「アメリカファースト」のトランプさんがどのようなポジションをとるのかに注目。

メルケルさんとの仲の悪さを吹聴され、トルドーさんとも意見が違うといわれ、けれども、EU 離脱のメイさんはトランプにすり寄るという関係。

フランス

前オランド政権下で大臣を歴任したマクロンさんが、「アン・マルシェ!(前進!)」を結成し、大統領選に出馬、当選。大統領職には、サミット直前の 5/14 に就任している。

いわば、「フランスファースト」のマリーヌ・ル・ペン候補への対抗として票を集めたのでは、という解説をちらほらみたので、マクロンさんのかかげる「中道」路線だけが支持基盤ではなさげ。

まだ、よくわからんね。

ドイツ

首相 3 期目。今年 9 月に総選挙を控えるが、その前哨戦といわれる州議会選で前評判を覆し勝利し、4 期目が現実的に。2006 年の初参加以来、今年で 12 回目の出席で、現メンバー最多。

ギリシャの財政危機もイギリスの EU 離脱も、もとはといえば、ドイツが域内で強すぎるから。そのうえ、財政出動には反対なものだから、負け組になったその他の EU に浮上の目がないんですよね。

とはいえ、前サミットでも「3 本の矢のアプローチ,すなわち相互補完的な財政,金融及び構造政策の重要な役割を再確認」していて、そこまでの分断を覚悟しているわけではなく、上記、3/20 の日独首脳会談でもこの点への言及はない。ただし。今次サミットでは、財政赤字解消の期限設定を延ばしたイギリスが反ドイツを明確にするでしょうから、より不利にはなりそうです。

自由経済を掲げる G7 には、歓迎しがたい波が迫っています。英中首脳会談時の歓待ぶり、AIIB への西側諸国で先陣を切っての参加など、イギリスは中国に傾倒しているとみられていました。しかし、昨今、中国はドイツ経済を牽引するロボット産業の攻略にも乗り出しています。

一般に、中国に進出しようとする外国企業は、現地会社との間に合弁企業を設立しなければなりません。そのため、自由経済とはいいがたい制度になっているのですが、逆に、外国では、中国の企業が外国企業を市場経済の原理によって自由に買収できるという困った状況です。これは、中国での土地の購入も同じで、このへんの公平性は、共産主義国では担保されません。

先のロボット産業企業の買収については、昨年、ようやく 中国の買収にドイツ政府から「待った」 がかかり、状況が変わりつつあります。

日米が口火を切るより、ドイツあたりに議題に挙げていただくとおもしろい展開になりそうなんですが、どうでしょうかね。

カナダ

トルドー首相は、2 回目のサミット出席。前回の日本でのサミットの際に、前乗りして休暇をとり、夫婦で温泉宿に訪れたことで話題になりました。

日本とは、アメリカが去った TPP を残りの 11 カ国( TPP イレブン)で引き続き交渉するかどうかの課題があって、どちらかといえば、二国間経済連携協定( EPA )に舵をきりたい様子です。アメリカ抜きの貿易協定だと、「対第三国で損しても対米で得すればいい」って戦略がとれないせいかもしれません。同じ理由で、東南アジア諸国においても、TPP イレブンでの交渉に後ろ向きな国があるようです。

トランプ大統領は、北米自由貿易協定( NAFTA )についても否定的で、再交渉を明言しています。カナダにとっては、こちらの方が重要な問題というわけです。

イギリス

キャメロン前首相は、「EU 離脱の是非を問う国民投票」の結果を受け首相を辞任。与党保守党の党首選において、対立候補が辞退したためにメイ候補が無投票で当選し、2016 年 7/13 に首相に就任。サミットへは初参加。

反離脱派のキャメロン首相が辞任し、離脱派だった前ロンドン市長ポリス・ジョンソンは、立候補せず。キャメロンさんと同じ保守党のメイさんが、反離脱派でありながら、EU 離脱の交渉をしなければならない苦しい立場に。

つまり、目下、最大の使命は、EU 離脱の影響をいかに小さくできるかであり、その透明性、公平性を求めているわけです。イギリスで経済活動を行うすべての国にとっての共通の課題ともいえます。

また、最近では、テロが頻発(3/22 ロンドン英国議会付近、5/22 コンサート会場)していて、まさに内憂外患、問題山積。

ここまで

日本で行われないサミットは、まったく報道が少なくって。去年はいったいなんだったんだと。

では、結果を楽しみにしつつ、また来年(予定)。