めかりる

カエル、変える、買える、帰る、考える

鳥獣戯画展を予習するシリーズ 3. 長尾摸本と探幽縮図と丙巻後半とヘビ

九州国立博物館の「京都 高山寺と明恵上人 鳥獣戯画」展まで、あと 5 日! 前期後期分、2 枚のチケットは入手済み。あとは、開展を待つばかり。

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このエントリーは、現存「鳥獣人物戯画」から漏れ落ちた物語を探りながら、お披露目を待つシリーズの第 3 弾です。始まる前に「終わり」を考える心意気で。

過去のエントリーは、こちら。

現存「鳥獣人物戯画」には、抜け落ちた物語があって、その一部は断簡や摸本といったかたちで伝わってますよー、というのが、これまでの流れ。

11/3 追記。九博で鳥獣戯画を見てきた話


ヘビの登場と物語の終わり

鳥獣戯画は、『別冊宝島 2302 鳥獣戯画の謎』の表紙にもあるように、「誰が、何のためにこの不思議な世界を描いたのか」が最大の謎です。いくつかの仮説はあるもののどれも決め手には欠け、作者や目的ばかりか作品の全体像も判然としない。

上野復元案による甲巻 2 巻構成説(1. 断簡と摸本 参照)は、もともとの姿を明らかにし、これらの謎を解明しようと試みたものです。

そして、その説によれば、甲巻のうちの 1 巻は、ヘビの登場によって、「楽園の終わり」が告げられることになっています。

長尾摸本の終わり

長尾家旧蔵模本 ( 伝土佐光信筆。ホノルル美術館蔵 ) は、サルの顔が朱塗りしてあることが特徴の摸本。

長尾摸本は、上野復元案でいう損傷痕のない巻に属します。

現存甲巻にない要素として、以下の 2 部分があります。

  • 第 19 紙と第 20 紙の間に位置する、ウサギとサルとの囲碁対局、腕相撲、丙巻前半にもある首引き、走り高跳び
  • 第 15 紙に続く、カエルの田楽の後半(田楽カエルは、全 5 匹。太鼓をたたくカエルを含めて、円になって踊っている)と見物するカエル、ウサギ、サルの親子、さらにその後ろでなにかに気づいて逃げまどうカエルの群れ、そしてヘビの登場

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探幽縮図の終わり

探幽縮図には、長尾摸本系統の甲巻摸本を写したものが 2 種あります。

ひとつは、鳥獣戯画の部分のみで 1 巻を成していますが、現存長尾摸本のうちでも欠落した部分がある摸本を写したとされるもの。サルの顔に朱塗りがしてあります。もうひとつは、京都国立博物館にある紙幅を 2 段組みにしたもので、ほかの絵巻物の写しとともに 1 巻を形成しています。長尾摸本のとおりの内容で欠落部分はありません。また、こちらには、サルの顔の朱塗りもありません。

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探幽縮図は、長尾摸本系統であって、現存の長尾摸本の写しとは限りません。探幽の生きた江戸時代には、いくつかの摸本が存在していたことが分かります。

丙巻後半の終わり

丙巻は、平成の大修復で特に注目されたもののひとつです。全 20 紙の構成ですが、烏帽子の黒塗りの跡と対応する箇所が見つかり、一枚の紙の裏表に前半(人間の物語)と後半(鳥獣の物語)が描かれていたことが分かりました。ちょうど物語が途切れる箇所も前半と逆に並べた後半とで一致します。これは、相剥ぎ(あいへぎ)の要領で分離させたんですね。

このへんは、ギャラリーフェイクファンの皆さまには、ピンと来るはず。

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『ギャラリーフェイク 2』「ART.1 愛国者のトリック」 細野不二彦

そして、この丙巻は、長尾摸本や探幽縮図と同じく、ヘビの登場によって終わります。逃げまどうカエルは同じだけれども、ヘビの向きが逆。

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甲巻乙巻は平安時代に描かれたとされていますが、丙巻丁巻はそれから少し時代が下がった鎌倉時代とされています。

鹿に乗るサルや蹴鞠など、甲巻(断簡や摸本)と共通の遊びはあるものの、摸本というには内容に隔たりがあります。かといって、まったくのオリジナルというわけではなく、甲巻のフォローのひとつではあったのでしょう。当時からの甲巻の人気の高さの証拠ともいえます。

とはいえ、なにより、カエルちゃんがまったくかわいくない!

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現存する甲巻の「終わり」

は、すごく唐突なものです。

その終わりのひとつの解決案が、これまでにみたヘビの登場です。「うひゃー。ヘビが来ちゃったもんだから、ほいほい逃げるぜー」って雰囲気。カエルたちの楽しい世界は、また別のどこかで続くような錯覚がします。

そして、現存甲巻の並び替えや断簡や摸本で補うことによって、あるいは、新資料の発掘によって、もともとの甲巻の姿を拝むことができる日が来るといいなー、と。

ひとつの謎が解けても、また新しい謎が生まれ、そうやってさらに鳥獣戯画の魅力が高まっていく気がします。

とはいえ、とうとう 5 日前なんですから、今年は今年の鳥獣戯画を楽しみましょう。

注)それぞれの資料の全体を載せることは省きました。

補足と''蛇''足

鳥獣戯画展を予習するシリーズ

  1. 断簡と摸本
  2. 住吉家伝来模本に見る益田家旧蔵断簡
  3. 長尾摸本と探幽縮図と丙巻後半とヘビ

予習シリーズは、これで終わり。また、来年。あるかな。

参考資料(再掲)

このエントリーは、以下の書籍とインターネットリソースによって生成されました。また、過去の展覧会、高山寺等への訪問で得た知見も混じってます。

  • 『日本絵巻大成 6 鳥獣人物戯画』(中央公論新社、1977 年)
  • 『鳥獣戯画がやってきた!』 (サントリー美術館、読売新聞社、2007 年)
  • 『別冊宝島 2302 鳥獣戯画の謎』(宝島社、2015 年)

鳥獣戯画が吹奏楽になった!

2004 年の全日本吹奏楽コンクールの課題曲だった「エアーズ」の作曲者の田嶋勉先生による、打楽器六重奏曲「満月祭」がそれ。

「鳥獣戯画第 2 番『満月祭』」が正式名称のようです。スコア(楽譜)屋さんの演奏サンプルがあったので転載。

クライマックスの盛り上がりは、まさに恐怖の前触れのよう。